《Fペングイン》第3話
うちの子は魔女
いよいよ秋も深まって参りましたね!
みなさま、いかがお過ごしですか?
秋と言えば、読書の秋、食欲の秋、睡眠の秋… いろいろ情緒豊かに過ごせる季節に、先日、楽歩がダンサーとして初舞台を踏むというんで、家内と見に行ってきました。
ちょうど1年ほど前ぐらいに「ダンスを習いたい!」といい始め、「なかなか教えてくれる先生が見つからへん!」と西へ東へ奮闘してると思っていたら、気がついたときには「ロック、ジャズ、タップ、おまけに社交ダンス」まで、一気に習い始めた半端ない娘の行動に、もう何もビビらへんでぇ〜と言い聞かせる私たちに「今度、初舞台に立つから見にきて!」とチケットを売りつけられて、ポカ〜ン!
どうやら初舞台で、ジャズとタップの2作品に出るという。もうこの時点で、私たちの思考はフリーズ状態。
楽歩からは、一般向けのダンス教室に通い、個人レッスンではないけれど、私は車椅子で踊ったり、できるスタイルで参加してんねん…ということは聞いていたけれど、それで舞台に立つって、まぁ、せいぜい枯れ木も山の賑わい程度の学芸会レベルを想像していた私たちは、幕が上がったとたん、びっくりポン!
ひと際目立つ、最前列で、スポットライト当たりまくりの、ソロパーツもあり、なんや目立つとこで、ほんまに踊っとるぞい!!!!
しかも、車椅子乗ってんの楽歩だけやのに、なんや無理矢理参加させた感がまったくなし。めっちゃ溶け込んでる感じに、半端な私たちは、またも「なんじゃこりゃ〜」を存分に味わい、その後のタップの作品では、なんとキャスター付きの事務椅子に乗って登場し、椅子タップでこれまた楽しげに踊る楽歩の姿が☆
激しく入れ替わるフォーメーションにも、出演者に椅子ごと動かしてもらったり、ここでもソロパーツがあり、出演者たちに両手をつないでもらって、椅子から立ち上がってのステップが、我が子ながらびっくりの連続なのでございました!!!
いったい、いつからこんなにも半端ない子になったんだ???
ということで、今回は、心配性を極めた我が家のゴットマザー、レイ子に、そこら辺を紐解いてもらいましょうか。
—
私は、もともと楽歩に限らず、五体満足なTetuやAyuにだって、心配性で取り越し苦労ばかりで、子どもを束縛してしまう母親だったの。
そんな心配性を極めた私が楽歩の母親になって。
楽歩が生まれて間もないころにミルクが飲めず、先天性の食道閉鎖症がみつかったの。
楽歩は6時間以上にも及ぶ(成功率わずか30%の)手術を耐えぬいてくれたのだけど、その深夜に、念の為にとりつけた呼吸補助器に痰が詰まり、誰もが目を離してしまった僅かな魔に、呼吸停止の心肺停止になってしまったの。
幸いその時は心臓マッサージや人工呼吸で蘇生はしたけれど、その後の数日間は、同じように呼吸補助器に痰がからんでしまう。
呼吸停止の前兆は度々あって、だから私は常に警戒して、一瞬たりとも楽歩から目が離せなくなってしまったの。
意を決してトイレに行っても、看護婦さんが廊下をバタバタ行き交う音がすると、出るものもでーへん!ぐらいに、私の心配性に追い打ちをかけるにあまりある出来事だったわ。
この時の恐怖体験から、「せっかく危機を脱したんやから、何がなんでもこの子を死なせたらアカン!私が守らな!!」という思いが強くなりすぎたのね。
私は命がけで、楽歩をカゴの中の鳥にしようと躍起になって。
でも楽歩は「一人でコンビニ行きたい」だの「一人で電車に乗りたい」だの。
挙げ句「車の免許を取りたい」と言い出し、私は心底“アホなこと言わんといて!”とばかりに猛反対していたわ。
でも楽歩は、私より遥かに上手だったわ。
その都度、根気よく私を説得し、納得、安心させる努力を惜しまなかった。
もちろん私の心配性はそれぐらいではビクともしなかったけれど、でも、そのうちだんだん、楽歩は何をするにも、充分安全に配慮してるんだっていう事が理解できるようになって。
私が守って生きてるだけで、ほんまにこの子は幸せなんか?と考えるようになったのは、間違いなく楽歩のパワーね。
それで、私もこの心配で心配でたまらん気持ちを辛抱せなあかんねんなぁ…と、悟らせられると同時に、スーッと気持ちが楽になったの。
楽歩は、人を魅了し、納得させてしまう不思議な超能力(悪く言えば魔力)を持ってるのよ。
幼稚園だって、楽歩は行きたそうやったけど、私が心配やから楽歩の気持ちをスルーしてたの。
でも近所の人から、ユニークで個性的な幼稚園を教えてもらい、しぶしぶ見学に行ったの。
そうしたら、楽歩は目をキラキラさせて「私、今すぐにでも、ここに来たい気持ちやねん」と保母さんに訴えて、内心私は「ひょへーー」と思って。
でも途中入園な上に、人気の園で簡単には空きはでない様子。おまけに楽歩は障害者だから「今のところ、いつご連絡をできるかもわからない状態なのです…」と体良く断られたことに、私はホッとしながら、楽歩を後ろに乗せて、自転車のペダルを漕ぐ足を軽やかに帰宅したら電話が鳴って…
「園長の許可が下りましたので、明日からでも通園して下さい」
って。どうやら楽歩が目をキラキラさせて語ってた姿が、園長の目に留まっていたのね!
私の心配性の隙居る余地がないほど、満塁サヨナラホームランをくらった感じだったわ!
あれから40年… ますますそのパワーに磨きがかかっているわね。
だいたいね、あの子、ほんまに脳性まひなのかしら?
だってね、練習でできないことも、本番では成功させちゃうし、車の運転も健常者より上手って、あり得へんやん。
育て方云々以前に、楽歩はサマンサなのよ!「奥さまは魔女」だったんだわ〜!!!!
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