モザイクに死す
~青年の人格はどうして崩壊したのか~
みんらぼメンバーには、チエワザを使っている様子を撮影させてもらうための「モデル」をお願いしている人がいる。特に実際の記事で登場機会が多いのは、天下の不良脳性まひ主婦である楽歩さん。そして、夫婦で脳性まひの障害を持つヒロさん・アコさん夫妻である。
彼らを撮影するのは僕の仕事だ。「だいたいこんな動画になるかなー」などと想像しながら、自前のiPhoneで行っている。そして撮影された動画を粗く編集して、指示書、テープ起こししたテキストデータと共に編集作業担当のマエシマくんにトスする。
マエシマくんは僕が作った粗編をもう少しナイーブに調整し、テロップやBGMなどを当ててくれる。そうこうしているうちに、作業進捗管理担当のもっさんが次のコンテンツ制作の段取りを進める。みんらぼのコンテンツを作り始めて苦節一年、僕たちは何とか安定した作業フローを手に入れたのだ。
ところが、その大切な作業フローを崩壊させ、コンテンツ制作の進捗およびマエシマ君の生命に多大な影響を及ぼす案件がある。モザイクだ。
この記事を読んでくれている人の中には既に目撃した人もいると思うが、実はヒロさんとアコさんはとある“大人の事情”で顔出しができない。だから二人が登場する動画には全てモザイク処理が必要になる。
それ自体は大したことはないのだ。今僕とマエシマ君が使っている動画編集ソフトは大変優秀で、映像の中で動いているもの(顔とかね)を指定すれば、自動的にモザイクが追尾してくれる。問題は、撮影した動画が、指定した人の顔の前を何かが通り過ぎる構図になっている時である。
それは「【歩きづらい】「干す」と「支える」を同時に実現!脳性まひ主婦の目うろこテク」というコンテンツを作っている時だった。マエシマ君にトスした動画が、中々上がってこなかった。モザイク入れは彼の仕事である。そして彼の仕事が終わらないと、当たり前だけどコンテンツをアップすることはできない。
僕は気になって、彼にメッセージを送ってみた。
ゆうさく「おっすおっすマエシマくん。動画苦戦してる?」
マエシマ「モザイクが飛んでいくんスよ…」
ゆうさく「なになに、僕ちょっと分かんないもう少し詳しく」
マエシマ「アコさんの顔にモザイクを貼り付けても貼り付けても、手前をタオルが通過する度にターゲットがタオルに変わって、アコさんの顔からモザイクが飛び立っていくんスよ…」
ゆうさく「あ…そう…なんだ…」
僕は無力だった。彼のために何をしてあげられることもなく、ただただ春風と共に飛んでいくモザイクを何度も拾いに行くマエシマ君の背中を見つめていた。
そんなことがあったからだろうか。無事に件の記事がアップされてからしばらく、「モザイクがなきゃ大丈夫ッス」が彼の口癖だった。
そういえば、今でもZoomでみんらぼメンバー全員集まって会議をしている時に、マエシマ君が視点とは別の方向をめがけてマウスをピクピクとさせていることがあるような気がする。あれはもしかしたら、画面に映っているアコさんの顔に無意識にモザイクをかけようとしているのかもしれない。だとしたらもう、不憫でならない。
彼のような犠牲者をこれ以上生み出さないために、今後もモザイク処理はマエシマ君にお願いしようと思う。
マエシマくんがモザイク処理をしている時に起こっていた出来事の全て
この記事を書いた人
- 1985年生まれ。和歌山県出身。健常者。物忘れがやや激しめ。子ども時代の家族は、共働きの両親と共働きの祖父母、あまり動けない曾祖母と無駄に動き回る2人の弟達という、8人の小さなダイバーシティでした。趣味は工作。段ボールと木材は夢のカケラ。部屋作りも大好き。いつか家をDIYするんだ。あと、シンガーソングライターもやってます。ジムで本格的な筋トレも始めました。チャームポイントは大腿四頭筋と大胸筋。
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